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全員が片思い

ジャン・ラシーヌの「アンドロマック」はオペラの筋にかなり近いです。というかこれが直接の原作。

この戯曲では、主要登場人物の全員が片思い。

オレステ→エルミオーネ→ピッロ→アンドローマカ→(ヘクトール)

反対方向は?

オレステ←幼馴染←エルミオーネ←妻←ピッロ←敵←アンドローマカ←妻←ヘクトール

ラシーヌの原作では、ピッロはエルミオーネとまだ結婚していない設定のようですが、オペラでは多分している設定。


エルミオーネの母親は、トロイアのヘレンです。ヘレンの母親はスパルタの王妃レダ、父親は神々の王ゼウス。ヘレンはミケーネの国王アガメムノンの弟メネラオスと結婚してスパルタを統治していましたが、女神アフロディテの策略によって、パリスと恋に落ち、トロイアに来ます。

メネラオスとヘレンの娘がエルミオーネ、アガメムノンとクリュタイムネストラの息子がオレステです。メネラオスとアガメムノンは兄弟、ヘレンとクリュタイムネストラは姉妹。幼いエルミオーネはクリュタイムネストラのもとで育ったので、オレステとはWいとこ、かつ幼馴染。

そして、エルミオーネの母の二度目の夫パリスの兄ヘクトールの妻がアンドローマカです。

ピッロ(というのは愛称で、赤毛の意。本名はネオプトレモス)が、オレステが代表するギリシア諸王に対して威張っているのは、お父さんのアキレスがトロイア戦争で無双の活躍をしたこと。そして、ピッロを担ぎ出せば戦争に勝てると神託があり、ギリシア側の神輿にされたこと。言ってみれば2代目のバカムスコ。そして参戦のお礼に差し出されたエルミオーネ。トロイア戦争で敗れたヘクトール、ピッロの捕虜になったその妻アンドローマカ。

このヤヤコシイ人間関係についてこられたあなたは、この悲劇がさらに複雑なことに気がつかれましたでしょう。不和の女神エリスが、最も美しい女神に、と言ってリンゴを投げ込まなければ、トロイア戦争も、この悲劇も起きなかったのです。エルミオーネはオレステと結婚し、アンドローマカはヘクトールと添い遂げ、ピッロは別の嫁さんを貰ったでしょう。

ここでもう一つ分かるのは、アンドローマカとエルミオーネは、一応叔母と姪の関係。つまりそういう年齢差。ピッロがものすごい年上趣味じゃなければ、エルミオーネはまだほんのお嬢ちゃん。例えばピッロ30歳、アンドローマカ32歳、エルミオーネ18歳ぐらいな感じ。エウリピデスの戯曲では、アンドローマカはエルミオーネを子供扱いしていて、オペラでもそういう見下した感じのある部分があります。

オペラでは、エルミオーネの要求の通りピッロを殺してきたオレステに、どうして私がほんとうはピッロを愛しているってわからなかったの?と言う理不尽この上ない場面がありますが、これもエルミオーネとオレステの近すぎる関係と、二人の若さを考えると仕方ないかな、と思う感じも。

母親がいない中、母親代わりの人の息子であるオレステお兄ちゃんと結婚するはずだったエルミオーネ。戦争のどさくさで突然年上の男性に嫁げと言われたエルミオーネ。嫁いでみたら、夫はさらに年上のオバハンを愛している。でも妻となったからにはと夫を愛そうとがんばるエルミオーネ。でもスパルタの後ろ盾による高慢なお嬢様気質にピッロはうんざり。良妻賢母型のアンドローマカに魅かれる。捨てられてショックを受けるエルミオーネ。そこに現れたお兄ちゃんオレステ。私の言うことなら何でも聞いてくれるわよね。ねえ、ピッロを殺してよ…。

無茶苦茶? だってエルミオーネはゼウスの孫なんだし、そりゃ間違いなく無茶苦茶なはずで。

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